アフリカンスクエアーが応援している、ニームを使ったマラリア対策の実験プロジェクトが7月から始まりました。以下、それに至る記録です。

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「ニームケーキ(ニームの実からオイルを搾り取った後のかす)をこのあたりの水たまりに捨てておいたら、そこだけ蚊が全然いなくなったよ。」この一言からこのプロジェクトは始まった。

昨年2014年2月にマリの地方都市セグーで開催された音楽祭「ニジェール川フェスティバル」で出会ったニームオイルの生産者、UPROBECの工房を訪れた時のことである。オーナーのABDOULAYE SANGAREは本業のシアバターの生産のかたわら、5年前からニームオイルの虫よけや皮膚病への効果に注目し、マリ国内で唯一ニームオイルの生産を続けてきていた。研究熱心で、フランス語の文献を探しては読み、英語の文献もインターネットで探し出すと、GOOGLE翻訳を使ってフランス語に直し、知識を増やしていた。

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製品としては、小さな遮光瓶に入れたニームオイルとニームの実を砕いてペースト状にして袋詰めしたものを、虫よけ剤として、簡単な撒布機と一緒に音楽祭の販売ブースで売っていた。また首都バマコ郊外にあるInstitut Economic Ruralという農業試験場にも働きかけ、野菜栽培用にニームを供給していた。

マリは7月から10月まで雨季になり、集中的に雨が降る。その間、随所に水たまりができ、蚊が大量に発生し、マラリアの被害が広がる。特に抵抗力の落ちている妊婦や幼児はマラリアにかかりやすく、死亡数も多い。マリの5歳以下の幼児の最大の死亡原因はマラリアとなっている。雨季になるとセグーの墓地では毎日のように、マラリアで亡くなった子供の埋葬が営まれる。

政府は蚊帳の配布や化学殺虫剤の撒布などを行っているが、高価な化学薬品を使っての対策は不十分であり、お金を使う割に効果が出ていないと国のマラリア対策機関、マラリア対策プログラム Programme Pour Lutte Contre Paludismeの責任者も嘆いていた。

ニームの除虫作用については、世界的に広く知られ、人体への安全性についてもアメリカをはじめ世界的に認められている。虫のふ化の阻害と幼虫への殺虫作用も効果が確認されている。
実用面でも「定期的に撒布していたら、虫がいなくなった」「テーブルなどを拭いていたらゴキブリがいなくなった」などの話はマリの国内だけでも数多くある。

一方、ニームの木はもともとフランスの植民地時代にインドから移植され、現在では西アフリカ一帯に広がり、北部の乾燥地域を除き、どこの村に行っても必ず見つかる木になっていて、マリの国の木と定められている。住民は固くて大きなニームの木を、日蔭をつくる木、材料や燃料として重宝しているが、実や葉はほとんど利用されず、破棄されている。したがって、ニームの実や葉を除虫に使えるのであれば、その原料費はほとんどただということになる。

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先の話に戻るが、「そんなにニームに蚊の発生を防ぐ効果があるなら、市役所に働きかけて市の事業としてやってもらったらいいじゃない。」と軽く提案したところ、なんと「それはいい考えだ。」ということになってしまった。
アフリカでは、我々日本人にとっては当たり前のちょっとしたことでも、意外に気づかず、外国人に聞いてはじめて気づき、アイデアがわいてくるというようなことがよくある。また外国人が話を聞き、賛同してくれたということで勇気がわいてきたということもあったのだろう。孤独から逃れた彼はプロジェクトに向けて活動を開始した。今回私は一般的な提案とブレインストーミングと議論で彼の背中を押しただけだった。それ以外は、実際の計画が始まる直前の6月まで何もしていない。何度も「話を聞いてくれてすごくうれしい。やる気が出てきた。」と言われ、それに応えるように、ひたすら背中を押し続けて1年。ようやくこのプロジェクトは稼働した。

このプロジェクトは蚊の発生を防ぐというニームの働きを利用して、マラリアの発生を減らす効果があるかどうかということを実証することだ。具体的には、7月から10月までの雨季の4ケ月間、ある村を決め、定期的にニーム溶液の撒布を行い、その間のマラリア患者の発生数を調べ、同規模の近くの村と比較するという方法で行う。まずは社会実験。結果がよければ、マリ全体にプロジェクトを広げていくという方針だ。

国際的に奨励されている化学薬品の殺虫剤撒布の問題点として、1.薬品に晒される住民の健康への影響 2.耐性蚊の出現を招く 3.化学物質による環境への悪影響 4.材料経費がかかる というようなことが考えられる。それに対し、現地に生えている天然木、ニームを使った蚊の駆除は、自然にやさしく、人間にもやさしく、しかも安価な方法であり、効果が実証されればマラリア予防の方法として大きな影響を与えることになるだろう。

また、自分たちでニームオイルを作り出し、撒布するためのトレーニングも行い、基本的に材料を自力で用意し自分たちで撒くことで、金をつかわずにマラリア対策の活動ができるような実例、自助によるマラリア対策の実例を作ることにもなる。

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今回のプロジェクトの活動母体として、Association Malienne du Nime (マリニーム協会)という非営利団体を設立した。メンバーが少なかったので私も副会長として役員に参加した。6月の初めに正式に登録を済ませ、プロジェクトの準備を始めた。プロジェクトを行う村は市の推薦で、Segou中心から8km東のMarabougou村に決まった。人口320人、総部屋数250部屋、浄化槽数64ケ所の小さな村だ。近くの同規模の村を比較する村として選んだ。Marabougou村のミーティングで村民の中から男6人、女6人の実行メンバーを選出した。このメンバーが毎週1回、64ケ所の浄化槽にニームケーキを入れ、週2回すべての村の部屋にニーム溶液の撒布を行う。

プロジェクトのメンバーにマラリア対策プログラムの医師も参加しており、毎月、Marabougou村と比較する村を訪れ、マラリア患者の発生状況をチェックする。Marabougou村については昨年のマラリア患者のデータも残っていて、それとの比較も行う。

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当初、ニームの撒布には行政機関の許可やニームが有害ではないということの証明が必要ではないかと考えたが、いずれも必要ないということがわかり、認可や許可の面での問題はほとんどなく、7月初日からの実験開始を迎えられた。

プロジェクトの経費としては、約50万円を見込んでいる。これについては、日本でのニームオイル販売による売上や寄付を回すことで協力するつもりだ。日本においてもニームは有機農業や園芸を中心に広く使われている。化学薬品に頼らない除虫剤、土壌の抗菌剤、土壌改良剤として、大きな可能性をもつ商品なので、日本においても普及を行っていきたい。